まばたきをする体

かつてなくIDとパスワードがこわい

IDとパスワードがどうしても認証されず3日が経った。

パスワード認証がうまくいかないのは、それはもうよくあることで、というか、しばらく使っていないサービスにログインしようとするとむしろひっかかることのほうが普通だ。

いまや以前のように自力でIDとパスワードを管理せずともブラウザが覚えておいてくれて、そのうえブラウザの方からセキュリティ的にOKな感じのパスワードを提案してもくれ、つまりかなりパスワードというものが頼りない私の手からは離れるようになってきた。

それでもなお、ずいぶん前に登録したサイトだったり、ブラウザの提案する系のパスワードを受け付けないサービスだったりすると曖昧な自力が必要になる。

パスワードが不明の場合、パスワード以外のなんらかの情報を与えてうまいこと通り抜けると登録したメールアドレス宛にパスワードを新規に発行するためのページが案内される。

この「なんらかの情報」が噛み合わず難儀することも多いが基本的には、それでパスワードを再発行することで扉が開かれる。

不思議なもので、パスワードを再発行しようとすると

>現在のパスワードと同じパスワードには変更できません

と跳ね返されることが一度ならずともあった。

これはつまり、パスワードは合っていて、でもなぜかパスワードが間違っていてログインができなかった、ということだ。

完全な謎状態であり、パスワードの有機性みたいなものを物語っているように思う。

ちなみにこの「再発行」が即時とはいかないパターンのこともまあまあにある。

高校生のころ、父がパソコンを買った。憧れのインターネットを使うべく、プロバイダ契約もしてもらった。

サービスへのログインパスワードを初期パスワードから変更した。なんとなく、家族の名前の頭文字のアルファベットを並べたパスワードだった。さあログインしようとするのだがログインできなかった。どうやってもできない。

コールセンターに電話したところ、郵送でのパスワード再発行になった。

そうしてする再発行は、手間だけれど、それでうまういけばまあ御の字というか、事象としてネガティブなことはまだひとつも起きていない、そこでゼロ地点、みたいな印象がある(つまり、すんなりIDとパスワードを覚えていていきなり入れた場合などはもはやプラス50点)。

パスワードで困る、というのはここから先のことを言う。

パスワードを再発行してなお、なぜかログインできないということが、まあまあ経験上は数回あるからだ。

新しくしたパスワードをいきなり忘れるというのはクラシックでもはやチャーミングなことだと思う。新しくしたパスワードをコピペしたところなんでか半角スペースだとか謎の英数記号が混ざっていたりなんてこともある。風情あることだ。

一瞬冷や汗は出るしいわゆる「手こずった」状態にはなるが、なんにせよ、再々発行なり、ミスに気づくなりして扉は開く。

それが、3日前からどうしても開かない扉がある。

利用している携帯電話の会社の会員ページにログインできず、これがどうしても開かない。

ログインに必要な情報はIDとパスワードのみだった。IDはメールアドレスではないパターンだが、契約時の書類がとってあり(すごいことだ)すぐに分かった。

ただパスワードが不明だ。ブラウザが覚えてない。いくつか打ち込んでみても認証されず、すぐに再設定に進んだ。

再設定はIDとメールアドレスが照合してすぐにメールアドレス宛に再設定用のURLを飛ばすことができ、パターンとしては楽勝ルートだった。

再設定画面で新しいパスワードを入れる。パスワード再設定完了画面には堂々といま入力したパスワードが隠されず表示され、ちょとひるむが「よし、間違いなくこのとおり変えたぞ」と確認ができ安心でもあった。下に「ログイン画面はこちら」とのボタンも設置され、押下でさきほどの画面に戻った。

記憶されていたIDと、いま変更したパスワードを入力する。

「IDとパスワードが認証されません」

おや?

入れない。

もう2度入れてだめで、テキストエディタでさっき変更完了画面で見たパスワードを確かに入力してペーストしてみてもだめだった。

そのうち、ロックがかかってしまった。数回パスワードを間違えると数時間入力ができなくなるらしい。

ややこしいな、なにか間違えてしまったんだろうな、そう思って寝て、翌朝はもう昨日のパスワードは諦めて、再度パスワードを再発行することにした。

前日設定したのはセキュリティ面をかんがみ複雑なものにしていたが、今度は確かに同一のパスワードを入力するためにも規定の条件を満たす単純なパスワードに設定する。ログインできたらすぐにパスワード変更をすれば問題なかろう。

しかしそれでもだめなのだ。「認証されません」という画面が出続ける。

手に負えないのを感じ、ロックされる前にコールセンターに電話をしてみることにした。もしかしたら何かごくごく単純な勘違いをしているのかもしれないと思った。

事情を話すと、電話口のスタッフの方はとても申し訳無さそうな様子で、こちらこそほんとにすみませんと、おたがいぺこぺこしながらあれこれと質問と対応にこたえた。

・キャッシュを削除する
・ブラウザを変える
・端末を変える
WiFiを切ってデータ通信を使う

スタッフの方と一緒に、事前にこちらで試していたこともふくめすべて試した。

最初のうちは、これですぐに認証されてしまうと電話までして乗り込んだのが恥ずかしいという気持ちが少しだけあって、ちょっとは手こずってほしいななどと考えてもしまったけれど、試せども試せどもだめなので最後はちゃんと「認証してくれ」という気持ちになった。

でも、だめだった。

パスワードの変更履歴も確認してくれて、ちゃんと昨日と今日、変更手続きがされている履歴が残っており新しいパスワードは生きていると言う。

結局どうなったかというと「大変申し訳無いのですが、わかりません」ということだった。

そうして、ものすごく丁寧に「たぶんそのうちなおると思います」といった内容のことを伝えられた。

会員ページにログインして何がしたかったのでしょうと、これも丁寧に尋ねられたので、新規で契約をしたかったのだと素直に言うと、その契約を電話口で受けてくれた。

ただし、契約のあとさらなる手続きを2週間後くらいにしなければならず、これには会員ページへのログインが必須となる。

スタッフの方はもう一度丁寧に「たぶんそのうちなおると思います」と言った。「ですよね」と私も言って、言いながら、なにか私がやはり間違えているのではないかという気持ちになっていた。

翌朝、起きて会社の仕事を始める前にログインしようとしてだめだった。

チャットでログインについて相談できるポップアップが出現して、ダメ元で相談してみたら、結果的に昨日のコールセンターを案内された。

2週間後には確実に会員ページにログインして手続きをしなければならないのだ。

このままだとできない。「そのうちなおる」の「そのうち」が2週間後でなければ、つまり私は、コールセンターでごねなければならないということだろう。しかも、私が操作の何かを間違えている可能性もまだ捨てきれない。

なにがどうなっているのかが分からない、自分が悪いのかもしれない、でもどうも下手をするとごねなければならない。なんだかものすごく面倒だ。

怖いなと思った。

先が見えない面倒を「怖い」と感じるものなんだな。

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