中学生の息子が防水の靴が欲しいと言うのでネットで検索し、真白いスリッポン型のゴム靴を買った。
何度か履いて、履き心地は運動靴のようですばらしいがちょっと白すぎると言い出した。確かに履くのは雨の日で、はねた泥が付くと汚れが目立つ。
それで休みの日、以前工作に使ったゴムに塗れる黒のスプレーの余りがあったからそれで塗ってみようと、マスキングテープで謎の模様も仕込んで取り掛かったが、右側を塗り終えたところでスプレーが切れた。
左を塗るのに新しいスプレーを、隣町のホームセンターに行って買ってくるという。
しばらくして帰ってきた息子が持ち帰ったのは万年筆と「自転車置場」のプレートだった。
ホームセンターが改装閉店で全品なんでも3割引のセールになっていたらしい。
ほかにも、このコロナ禍でひろまった、スーパーやなんかでレジに間隔を開けて人を並ばせるのに貼る立ち位置のシールも買って丁寧に部屋の床に貼った。万年筆も一度使ってみたかったのだといって満足そうだ。
肝心のスプレーは全色すっかり売り切れていたというから、なんなんだこの人は……と内心思いつつもAmazonででかいのを買ってやった。
それから私は夕飯の買い物に行って、帰ると息子は買った万年筆で裏紙に絵や字を書いていた。朝から着ているパーカーにインク染みがぼつぼつ飛んでいる。
指摘すると「ああっ!」と、どうも飛び散った瞬間から今まで気づかないままでいたらしい。
息子の気に入りのパーカーは白い。
父親と街に映画を見に行ったときに見つけてねだって買ってもらったオーバーサイズのしゃれたので、先日はカレーうどんを食べるのにこのパーカーを汚さないようにと前掛けをして食べていたのに。
食べ物の汁が服に飛び散るのは経験上分かっていて気をつけたが、文房具から墨が飛ぶのは思いもよらなかったんだろう。
「ああ~~」と息子は頭をかかえ、私はネットで「インク染み 落とす」などで検索したが、息子は「ああ~~」の姿勢でしばらく止まってからスッと立った。
これも染めよう。
Amazonはさすがの配送の速さで翌日スプレーは届いた。靴は真っ黒に染まった。右の足はマスキングテープで模様を入れたが、左に模様を入れるのを忘れてしまったそうで、結局両足全面黒く塗っていた。
パーカーも、インクの染みが付いたところを黒い四角形を描くようにマスキングし迷いなく染めていく。
半日ほど乾かしたあと、マスキングをはずして染め上がりを広げる。眺めた。デザインとしては普通に変だが、「これを引き受けいましめとし生きていく」と袖を通した。
それが1ヵ月前の話で、以来息子は黒い雨靴と変な模様のパーカーで平気であちこち出かけていく。そのうち慣れて格好良く見えるようになってきた。
「そのパーカーの柄、見慣れたね」と声をかけると「慣れたんじゃなくて、もしかして最初からこれは格好良く仕上がっていたんじゃないかと思うんだ」と言う。
「変だと思った俺やお母さんの目が未熟だったのかもしれない」
もしかしたらそうかもしれないと思った。
自転車置場のプレートはふざけて学校の部室の前に貼ったところ、自転車が停まるようになったそうだ。
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