まばたきをする体

ものが水に溶けるとはどのようになることか

娘の通う小学校はコロナ禍でも配慮して保護者を校内に招き、子どもたちの様子を校外に伝えようと努力し続けてくれている。

ある数日間が指定され、その間はいつ行っても関係者が自由に校内を見て回ることができる「学校公開」は、入校可能時間を枠で分けて参加希望者を分散させ校内が密にならないようにすることや給食の時間は非公開とすることで(逆にそれまで給食の様子を見学できたのがすごい。うらやましそうに見守る保護者と誇らしげに食べる子どもたちがいた)緊急事態宣言期間を避けて着々と開催され続けた。

先日も開催されて、娘の受ける理科の授業を見学させてもらった。これがすごくおもしろかった。

私は子どもの頃の記憶が薄い方で、特に学校の授業はおおむねぼんやり受けていたからいよいよ覚えがない。過去を思い出して懐かしむ感覚じゃなく、ただ新鮮に鮮烈に初等教育が中年の身にみなぎった。

内容は「ものの溶け方」。

最初に先生が黒板に大きく「ものが水に溶けるとはどのようになることか」と書いた。板書してねと言われていっせいにノートをとる子どもたち。

それから、理科室に並ぶ小島型の机ひとつひとつに、3つのビーカーと3種類の粉が配られる。

班ごとにビーカーに水をくんで、ひとつずつ、粉を入れてマドラーでよく混ぜて観察する。

1つ目の粉はすぐに水に消えて透明になった。2つ目の粉も混ざって水が白濁した。3つ目の粉は茶色い色が付いていて、なかなか混ざらないのだけどしばらく混ぜると透明の茶色い液体になった。

ここで、先生が子どもたちに、それぞれの水に入れた粉は溶けたかどうかを挙手で聞く。

1つ目は全員が「溶けた」に手を上げた。2つ目はちょうど半分が「溶けた」に、もう半分が「溶けていない」に手を上げた(娘は「溶けた」に、青天を衝く勢いで挙手していて、その細く高い手のキレに笑ってしまった)。3つめはまた全員が「溶けた」に手を上げた。

先生は、1つ目と3つ目はみなさんが言うとおり、溶けましたね、という。

じゃあ2つ目はどうでしょう。「溶けた」と思う人の意見を聞かせてください。すると数人の生徒がよろよろ前に出てきて「混ざったので溶けたと思う」「にごった水になったから溶けた」と発表して、拍手。

続いて「溶けなかった」と思う人も意見を聞かせてください。また数人の生徒がよろよろ出てくる。申し遅れたが娘は小学5年生で、これくらいの時期の子は急に背が伸びて伸びた背をどうしていいかわからないのかなんだかみんな胴体が全体的に左右によろよろする。

「溶けなかった」派は「にごっているのは溶けているのではないと思う」「放っておいたら底に溜まった。溶けていない」等々述べて拍手をもらってまた席に戻った。

先生は、うんうん、とうなずいて、「ここで正解を発表します」とおっしゃった。

私は、おやと思った。「正解」? 確かに学問には解があろうが、子どもたちはいま実験をして観察して体験から言葉を取り出した。それを「正解」「不正解」で両断して良いものだろうかと、心にいちゃもんが付いたのだ。

すると先生は「理科的な『正解』ね」と付け足された。うおっ、漏れ出なかったはずの心の声が聞こえてしまったかのようだ。でもきっと、私のように思う子どもが脈々といた、ということだろう。

「理科的には、2つ目の粉は、溶けません」

おお~とざわつく子どもたち。「ここで、最初にノートに書いた言葉を見てくださいね」。言いながら、先生は黒板にも書いたその文字をさす。

「ものが水に溶けるとはどのようになることか」

ああ! そうか。これは「ものが水に溶けるとはどのようになることか」を学ぶ授業だった。「ものを水に混ぜて観察する」授業ではないのだ。

私は「え~、混ざってるんだから、2番めの粉も溶けるって言い表してもいいんじゃないっすかねえ」と、実験を見学してそう思った。

でもこれは「ものが水に溶けるとはどのようになることか」をみんなで目撃して、「このようになることが、ものが水に溶けるということだ」と握り合う。認識を確認し合う授業なんだ。

「ものが水に溶けるっていうのは、その姿が水の中に見えなくなることを言います。2番目の粉は、まぜても濁る、濁っているということは粉がまだ目に見えているということ。沈むのも溶けなかったということです」先生の言うことが全部素直に身にしみる。

理科だけど国語みたいな、これを見てなんて呼ぶことにする? と相談するみたいな授業で、小学校の勉強ってこういうことだったのか。

ちなみに2番目の粉は「片栗粉です」とのこと。1番目の粉は砂糖。3番目の粉はインスタントコーヒーを砕いて砂糖を混ぜたもの。

あ~、片栗粉、そういえば混ぜてもぜんぜん溶けない。ありゃ溶けない、溶けてないわ、人間生活から見ても、確かにぜんっぜん溶けない。やたらに実感もした。

 

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古賀及子
A5版・178ページ
装幀:奥山史歩
組版:麻川針
印刷・製本:あかつき印刷
頒価:1500円

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