まばたきをする体

リステリンオリジナルと祖母と私と母

リステリンオリジナルを私は父方の祖母からおぼえた。

ここで言う「おぼえる」は、存在を教えてもらって知っておぼえるのみならずの、「たばこをおぼえる」とか「お酒をおぼえる」の「おぼえる」だ。リステリンを使う習慣を祖母にならった。

私は18歳で短大に入学するころ埼玉から東京の祖父母宅に居候として転がり込んだ。

そのころはまだ祖父母宅の洗面台にはあの1リットル入りのでかいダンベルみたいな容器はなかった。祖母の人生にリステリンが登場したのは、私が同居をはじめた後だったはずだ。

祖父母の家は交通の便の良い場所にあり、私が居候をはじめて少し経った頃、いとこ夫婦(祖父母にとっての孫夫婦)もやってきて住みついた。いったん私が先輩からシェアハウスに誘ってもらって離脱して、しばらくして祖父が脳梗塞で倒れて寝たきりになり、いとこ夫婦は自宅へ戻っていって、私が再度居候として帰ってきて、それからどれくらいだろう、祖父が亡くなった。

なんやかんやあったそのいつの間にかだった。リステリンが祖母の消耗品一覧のうちの、絶対に欠かしてはならないもののひとつに加わったのは。

祖母はリステリンのラインナップのなかでも強刺激品である「オリジナル」に強いこだわりを持っていた。それ以外は認めないと強固な立場を表明していた。

クールミントなど他のものでは甘すぎる、というのがその理由だと聞いたおぼえがあるが、そこにちょっとしたリステリンユーザとしてのプロ意識のようなものを祖母は持っていたように見えた。あれじゃなくちゃダメなのよ、みたいなことをよく言っていた。

祖父が死んだあとも私は居候として残った。

祖母の使うリステリンオリジナルをどうして私も使いはじめたのか、その記憶は全くない。いつかなんとなく祖母にならって使うようになったのだと思う。

そうするうちに、私も祖母と同じようにやっぱりリステリンはオリジナルじゃなくちゃあねとプライドを持つようになっていき、その自意識は祖母を喜ばせた。

リステリンオリジナルに対し祖母と私の間には「これだよね!」みたいなバイブスがあった。

さて、母である。

私が独立して祖母宅を出てから数年のあいだ祖母はひとりで暮らしていたが、そのうち腰を少しだけ悪くした。それで、生活を助けるために私の両親が祖母宅にやってきた。

そこで母もまた、祖母からリステリンオリジナルをおそわったのだ。

母は私が子どものころから大変に歯に難儀を抱える人である。さまざまな歯科治療を受けており独特の口腔ケアを行っていたようだが、なぜだろうリステリンのようなマウスウォッシュにはとくべつ銘柄の指定を持っていなかった。

祖母の強いこだわりはすぐに母に伝播した。リステリンオリジナルのもとに母も集うようになり、これで三代がその流派に名を置くこととなった。

このころリステリンシリーズには高価格帯で虫歯予防まで効果をひろげたトータルケアシリーズが登場し人気を集めていたが、私達はあくまでオリジナルを支持し続けた。

祖母は亡くなった。

しかし、リステリンオリジナルを私達親子は今もなお使い続けている。

毎年正月に実家にあいさつに行ったあと、私は必ず実家(かつての祖母宅)のちかくの商店街ででかいボトルを2本、2リットル分のリステリンオリジナルを買う。このあたりの商店街にはドラッグストアが数件あり、値段やセットを見比べてとても有利に仕入れることができるからだ。

運が良いとリステリンは1リットルボトルに250mlのボトルがついてくることがあり、これは「親子」と呼ばれて吉兆とされ、正月にめぐりあわせるととても縁起が良い。

母は私以上にリステリンをいかに安く買うかに日頃から執心しており、私が安く買って帰って帰るとなぜうちの分がないのかと怒る。得意になって1リットル分を母にドラッグストアで買ったとおりの値段で売る。

いまだに残念に思っていることがある。祖母がいつもどのドラッグストアでリステリンを買っていたのか、聞かなかったことだ。

祖母はリステリンを絶対に切らすことのないように、1本をストックとしてかならず保管し、1本空になるごとに真面目に買い足していた。重い1リットルボトルを、祖母は買い物カートに入れて引いて帰ってきたのだろう。

同居していたころは、使っても使っても祖母が必ず買い足すので、湧く泉のようだった。

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