まばたきをする体

勝手に人を切ながる

朝の支度を終えて仕事をはじめてしばらく、あっ! となった。もう9時27分じゃん!

娘が起きないのであきらめて仕事をはじめたところ集中して娘の起床のことをすっかり忘れていた。

9時半から塾がある。

大急ぎで起こすと娘もわっとなって転がるように起きてきた。水を飲んでハムを食べて顔を洗って口をゆすいで、そうしている間の娘をおいかけながら私は髪を結って、結いあがるとそのままかばんをつかんで出て行った。

娘はこういうときのために寝巻ではなく服を着て寝ている。

あっ! ちょっと塾が! あー! あー! わー! なんでー! あと2分~! ちょっと~! も~!

娘と私の叫びで一瞬大盛り上がりした家は静かになって、仕事に戻る。

しばらくして作文教室のおじいさん先生が会報を持って訪ねてきた。娘さんが興味を持っているようですのでと、テレワークに関する新聞の切り抜きもいただき恐縮する。娘、ちゃんと本当に興味を持っているだろうか。

大慌てで出かけた娘は昼前に何事もなかったようにゆっくり帰ってきた。人が出たときと帰ってくるときのテンションが違うとき、人と暮らすことのおもしろさを感じる。

でかけていた息子も帰宅して、簡単に昼ご飯。それから私は午後は会社へ。事業の会社間の移管についていく格好で会社を移って、今日から新たな会社に入る。

辞令を受け取ったり社員証の写真を撮ってもらったり、フィクションの世界のサラリーマンみたいなことをしてうれしくてしびれた。

それから同僚のみんなで執務室のオフィスグリコをめずらしくながめ、「おい! 冷凍庫にアイスがある!」「こっちに自販機があったぞ! 街で買うよりすこし安い」など珍しがった。「駅ビルでうまい肉が売っていますよ」とも聞いた。事務所は楽しいですねと言い合って帰った。

すっかり気持ちが明るくなった。

帰ると娘はいたが息子がいない。しばらくして帰ってきて、公園で小学校時代の友人らが遊んでいるのを見ていたんだそうだ。……見ていた!? どういうことかと聞くと、骨折して自分は遊べないので、おしゃべりだけ参加していたとのこと。

小学校時代の友人らが遊んでいるのを遠くから見ていたのかと、こうして私はいつも勝手に人のことを切ながる。

夜はあるものを食べてしのぎ、それからファッション雑誌を読んでネットで服を買った。昼間すっかり気持ちが明るくなって、そこから急激にきれいな服を着たいものよという気になった。

性根の部分におしゃれでいようというベースの気概がないため、気を抜くとすぐどうでもいい服をずっと着て、むしろたいしたことない服で間に合わせていることに充実して満足してしまう。なんらかの刺激があってはじめて良い服を着んとする気持ちが起きる。

毎年それほど感じないんだけど、今年は春が来てうれしいなあと、暖かさによってわけもなく前向きな気持ちになっており、動物の感じだ。

なぜかと考えて、自宅にずっといるからじゃないかと思った。自宅は冬は寒く夏は暑い。気候が変動する。会社の執務室に通うとそれがなくて、いつもとても快適だ。今年はずっと家にいるので、それで「春がきた~~! パァァァァ」という気持ちの開きが例年よりも強いんじゃないか。

階下で息子が「ファ!」と言っている。

どうした、なんで「ファ!」なのと聞くと、風呂から上がったことを妹に伝えるためだそうだ。「ファ!」で通じるのかなと思ったが、娘は風呂に入っていった。通じている。

春のうれしさで居間の照明の切れた電球も買った。

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