まばたきをする体

社会の厳しさとは

昼はコンビニで弁当コーナーのそばを買った。

少し前、夜に仕事があって終えて帰りぎわ、そばが食べたくででも帰って自分で茹でるのはめんどうで、コンビニで多分はじめてあたたかい汁のそばを見つけそうかコンビニにもそばがあったなと買って、そこでご飯の引き出しに「コンビニのそば」がひとつ増えた。

売っているのは知っていても買う習慣がないと本当に買わないもので、こうやって40年以上生きてコンビニもよく使うが買ったことのないものがまだまだたくさんある。

そうだ私はこのあいだ、コンビニのそばを覚えたんだもんね、覚えたそばを買うもんねと、今日はちょっとメタな気持ちで買った。

さらにはっとして、会計時にあたためを頼む。

どうせ家に帰る、その場合はコンビニで温めを頼まず家で温めることがほとんどだった。でもそうか、頼んじゃってもいいんだよな。

開眼に開眼を重ねる方式。温まったそばは、レジ袋をもらわなかったのでどんぶりで店員さんが渡してくれた。エコバッグに入れて緊張感をもって平行を保ち帰った。

食べて午後の仕事に戻る。会議があって、途中で息子と娘が帰ってきた。

コンビニでそばを買う前に銀行でおろした塾の月謝を娘に無言で見せて、口パクで(じゅくのげっしゃ、もっていってね)というと娘はうなずいた。

しばらくしてドアのしまるパタンという音がして、私が会議をしているから「行ってきます」を遠慮したんだな、気を遣っているなあと思って見ると机の上には渡したはずの月謝がそのままだ。

おやつの肉まんをあたためんとする息子に追いかけていくよう頼むと、嫌がるかと思いきや引き受けてくれた。頼むとき形相を鬼にしたのがよかったのかもしれない。

仕事を終えて夜はさばを焼く。ごはんを炊いてあとみそ汁と、ほかにおかずを作る時間がなかったので人参と大根を切って生のまま味噌マヨネーズをつけて食べるべく出した。

味噌マヨネーズの隣にさばにそえる大根おろしを置いたところ、息子が大根に大根おろしをつけて食べていた。そんなことするのか。

食べながらテレビでNHKの「サラメシ」が放送されておりなんとなくみんなで眺める。よく見かけるので知ったがこの番組は出演する人の名前の下に好きな有名人をテロップで出すのがならわしになっていて、これがぜんぜん番組の筋と関係なく興味深くておもしろい。

息子はおれならここはトム・クルーズだな、と言っていて、ああ、いいなあ、いいチョイスだなあ。だれもが知っているが、スターとしての規模がでかすぎる点で意外性がある。私の小栗旬にも息子はいいだろう、と賛成していた。

一方娘が「私は、いない……」というと息子は「おい……そういうのは……許されないぞ」と心配しており、そうなんだ。好きな有名人は? なんて質問、そんなのなんだっていいし答えなくても当然だしくだらないことだけど、社会の厳しさは全くこういうところにあるものだ。

私と息子で娘をインタビューし沖田総司でいこうということになった。

今日娘は学校でヒット曲に合わせた振り付けのダンスを習ったそうだ。食後見せてくれるというので娘の前に座る。「靴下をはけ! はけたらダンスをはじめます」娘に急に言われてうっとおしくてぬいでいた靴下をはいた。「寒いからな」「はい!」

娘は上手に歌って踊っており喝さいを送る。ビデオにも撮れてラッキーだ。あとでまた観よう。

夜、ひとり本を読んでいるとふすまのむこうの台所で息子の声がした。

「さーてと、青汁のーもう」

続いてグラスを出して冷蔵庫を開けなにかを取り出す音。

「この青汁は砂糖が入っていないから寝る前に飲んでも罪悪感がないんだよなあ~」

グラスになにかを注ぐ音、そしてグラスを持ち上げる音。

「は~青汁は健康にもいいし、うまいなあ~」

我慢たまらずふすまをあけた。「いったい誰なんだ」「青汁を説明する人です」そうなんだ……。

それから息子は「歯を磨いて木を燃やして寝ます」といって、言ったとおり、歯を磨いて香木というお香の木に火をつけ煙をゆらゆらさせて、それからちょっとバランスクッションに乗って片足でバランスをとって部屋を去った。

 

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