まばたきをする体

元服である

息子が一人で映画館に行く日がやってきた。

秋休みで学校がなく、友達と「鬼滅の刃」を観に行く約束をしたが、それが午後からなので午前中の内にずっと行きたかった「テネット」を観ると段どっていた。

友人らは遠慮して午前はテニスをするそうで、一人で行くという。

子どもが一人で自分の観たい映画を観に行く。

誰かに誘われてついていくのでも、親がすすめて行かせるのでもない。自分の意思で、自分の観たい映画を、一人で観に行くんだ。

元服である。

ふつふつした喜びがすごい。息子は小学生の頃は電車で行くような場所はぜんぶ私がついて行った。小学校も塾も徒歩圏で、一人で電車に乗る習慣がなかった。

それが中学生に上がったとたん、急に一人で電車に乗ってどこへでもいける、いや、いけるのは小学生の頃だってやればできたんだとは思うけども、どこへでも一人で行かねばという気持ちが整ったように見える。

単純に、iPhoneを持ち地図と乗換案内が見られるようになったのも大きいが、なにしろできるできないよりも、自分が観たい映画があって、ひるまず映画館に行くほどの気持ちだというのがなによりもうれしくて心がすっかり仕上がった。

娘を小学校へ送り出して仕事をしていると、出る支度を整えきりっとした息子がやってきて、こちらがチケットを取り出す予約のQRコードです。そしてこちらが生徒手帳、と映画館に着いてからのシミュレーションをした。

「心配だから、映画館についてチケットが出せたらLINEしてよ」「やだ」

やですか。

じゃあ困ったらLINEして、LINEがなかったら無事なのだなと思うようにするからと送り出した。

パーカーもズボンも黒で、黒い服しかないというので帰りに服も見ておいでと伝えた。

用があり渋谷に行って、そこから近くのコワーキングスペースに移動して仕事をする日。

息子の観る映画が始まる時間になって、お、はじまったと思い、あれこれ片づけて打ち合わせなどもして、時計を見るとまだ上映が続いている時間帯で、誰か映画を見ている人のことを考えていると2時間半の映画はとても長い。

仕事を終えて帰り晩の買い物へ。娘もついてきた。

あれこれ買って帰ると娘が急に走り出した。帰り道とは別の遠回りの道をピャーっと行ってしまった。

なるほど……遠回りしてなお、通常通りの道で帰る私より先回りしようというのだな。合点ですぞと私は私でそのまま帰ると、案の定道の先で娘が顔を出した。

「遠回りの道なのにお母さんより早くてすごいね!」というと「道、間違えた」のだそうだ。

「お母さんより早く走っていくぞ~って思って、途中でふり返ったらお母さんが角を曲がっていくのが見えて、あ、道間違えたって気づいた」

そんなことあるのか。

LINEが来て、息子からだった。

「帰ってます。テネットはすげーおもしろかったけど、意味はぜんぜんわかりませんでした」

おお、お母さんもそうだったよ。

帰ってきた息子と感想をしゃべり合った。

ご飯を食べて娘のリクエストでぬいぐるみをしゃべらせて、それからまた息子と感想を話し合った。

風呂に入って、寝る前もまた少し話した。

 

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