まばたきをする体

「ないな」の印象が強く心に残っていた

通勤していたころは、会社での勤務時間中にクーラーを存分にあび体に冷気を貯蔵していたのではないか。

暑い中朝起き我慢してばっと会社に行く。事務所は冷気で充満しておりその快適さを体の芯まで勤務時間を通してため込む。そして自宅に戻ると解凍のように芯にためた冷気を溶かしながらすごす。

それで、盛夏の季節を除いては朝晩は家ではクーラーをあまり使わずにすんだ。

しかしずっと家にいると、延々家の温度ですごす。冷気をためることがない。今年は9月になっても薄くクーラーを使い続けている。

子どもらが学校に行き、今日も私は自宅で仕事。10時ごろにおなかが空いて海苔でスライスチーズとハムを巻いて食べた。家にいると独特のものを食べる。

そのままやーっと仕事をすすめて終えて、晩ご飯の買い出しに出た。

ついでに図書館で借りた本を返して、息子に頼まれた英語のノートを100円ショップで買って、書店で注文していた本も受け取る。

図書館では返却ボックスに本を差し入れてから受付がまだ開いている時間なのに気づいてしまったと思い、100円ショップでは英語のノートに13段のものと15段のものがあって迷い、書店では注文した本を買うのに商店街のお釣りの出ない商品券をどう使うかで混乱して、ちょっとした用事を片付けるのにもひとつひとつ思考がめぐるものだなーと、なんとなくあとで感心した。

スーパーでナンを買った。ナンが食べたいと思っていたんだ。インド料理店で出るような大きなやつはなくて、小さいナンがぎゅうぎゅうにパックされているのを買ってかわいい。

それから、明日の朝食べる肉まんをかごに入れ………おお! そうだ! 肉まんにつけるチューブのからしだ! ずっとからしを切らしているなあと思っていたんだ! 今日こそは、と買った。

帰って冷蔵庫を開くと新品のチューブのからしが1本入っていた。

お……おお……買ってたんだっけ……。

からしがないな、ないなとずっと思っていて、その「ないな」の印象が強く強く心に残っていたんだろう、連続して買ってしまった。

「ないな」の期間が長引くほど、あとで重複買いには気をつけねばならないのだな。

くやしかったので子どもたちにも伝えた。「からしが、ないな~、ないな~って、ずっと思ってたのが印象に残っちゃっていけなかったみたい。ないな~、ないな~って。ないな~、ないな~」

二人ともあらら、というリアクションをしていたが、しばらくして息子が、「その『ないな~、ないな~』ってやつ、何」と聞いてきた。

稲川淳二の怪談をまねて言ったのに気づいてくれた。優しい。「稲川淳二の怪談みたいに言ったんだよ『いやだな~、こわいな~』ってやつ」

息子は「そういう人がいるんだ」と言っていて、そうか、知らないか。

みんなで買ってきたナンを焼いてカレーと一緒に食べて満足した。

夜はビールを飲みながらさっき書店で受け取った本を読んだら興奮でどんどんビールがなくなった。

鼻息荒く読み進めていると、そろそろ寝るからとやってきた息子が「さっきの『いやだな~、こわいな~』って誰だっけ」という。「稲川淳二だよ」「しながわ?」「いや、稲川。すごく有名な人だよ」「わかった」

息子は大事なことだと感じ取ったようだ。勘が良い。

 

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