まばたきをする体

「新幹線の靴下」を越え「靴下の新幹線」に逆転

起きだして、グーグルホームにラジオを鳴らすように頼んで、洗濯機を回し、冷蔵庫から冷凍させてある食パンを録りだしてオーブンレンジの鉄板に並べてスタートボタンを押して、こうしてまるで同じような日を繰り返しているのにオーブンレンジで焼けるパンの焼きあがりの焼け具合が微妙に違うのはどういうことなんだろうな。

その日の気温や湿気で製造物の状態が変わるというのは様々な職人の方々がなんらかの取材を受けたときの様子を何がしかでたびたび読んで聞いたことがあるがうちのパンもそういうことなんだろうか。

今日のパンはあまり焼きが進まなかった。

でもだからといって特別追い焼きすることもなくそれぞれの皿に置いていく。オーブンがピピピと鳴る、それが重要だ。「焼けました」とオーブンが言っている、それこそが焼けたことそのものだ。

むぐむぐ無心で食べて子どもらは学校へ行った。私も仕事。

頭を使うのではなく手を動かす作業をするいちにちで集中した。打ち合わせなどもほぼなく手を動かして指と手と手首が疲れるころ概ね終わって退勤ボタンを押した。

子どもたちもそれぞれに帰ってきて夜はカレーの缶詰を開ける約束をしている。いなばのタイカレーの缶詰をまとめ買いして休校中の昼食に数回出したところ息子が魅入られた。

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給食がはじまり昼に食べられなくなったのでぜひ晩にという強いリクエストで3人好きなカレーを選ぶ夜ご飯になった。ご飯の支度が楽で泣ける。

食べながらニュース番組を観た。N700Sという新型の新幹線が運行を開始した報道で、ずいぶん長い時間をかけて特集している。

東京駅での出発の様子が写され、見ていた娘がN700Sの奥に止まっている新幹線を「あ、靴下の新幹線だ」と指さした。エメラルドグリーンの車体のはやぶさだった。

ああ……ああ、本当だ。鉄道ファンの小さな子がはやぶさの柄のくつしたを履いているのを本当によく見る。それでもはや娘の感覚は「新幹線の靴下」を越えて「靴下の新幹線」に逆転したようだ。その感覚、すごくわかる。「本当だ、靴下の新幹線だ……」と娘の気づきに感激して復唱した。

食後、子どもたちは大箱で買ったアイスバーを食べていた。「今日はまだアイスを食べてない」と息子がいい「私も」と娘も言って、この家ではアイスは1日1本までということになっている。

私は子どもたちが学校に行っている昼に食べた。すこし考えてから「お母さんはもう昼に食べたから食べられないな」と言った。

嘘をつこうかなと思ったのだ。「実は嘘をつこうかと思ったけどやめた」と白状した。「嘘は絶対にだめだ」と息子に言われ「まったくだ」と誓った。

嘘をつかないとは、こういうことなんだな。

娘が息子の検尿の知らせを読んでいる。添付の容器を見て「量が多いな……」とひとりごとを言っていた。「私のときはもっと入れ物が小さかった。中学生だからかな」

年長者への経緯がちゃんとこもっているように感じた。

 

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