まばたきをする体

「かわいいもの」と「それを愛するもの」の話

息子のiPhoneにLINEを入れた。息子から手の絵文字と「手です」というテキストが送られてきたので、私は三角帽子の絵文字と「帽子です」というテキストを送った。

「それはテントではないでしょうか」と返ってきた。テントだったのか……。「テントでしたか……」「はい、テントです」「そうか……」

最後のメッセージを送るや否や、息子が背後からやってきて「このやりとり意味なくない?」といってくるので、意味がないことには面白いという意味があるのだよと伝えた。

友達に送るスタンプがあるといいのだろうなと思ってとりあえず「地獄のミサワ」のスタンプを買ってやった。これ8年くらい前のやつだな。でも改めて最高のスタンプだ。

在宅勤務の日で、子どもたちも自宅学習。

昼になり、ご飯をどうしよう。こうして全員家にいると週末のようだ。

都からの外出自粛要請を受けてか、どうやらスーパーから食料がずいぶん買われて消えているらしい。ばかすか買い占めるというよりも、普段外食をしている人たちが自炊に切り替えたり、不安だからほんの少しいつもより多めに買っておこうかという人が少し現れるだけできっとこうしてスーパーは空になるんじゃないかと思う。東京には人が多い。

ダメもとで息子にラーメンを買いに行ってもらったらLINEで「なんもない」と送られてきた。あとミサワのスタンプが。

息子はサイダーとポテトチップスを買って帰ってきた。それは………要るな。

急いでご飯を炊いて、豚肉があったので豚汁を作った。豚汁を作るときは味噌のほかに麺つゆを入れて甘めの味付けにしていいというのが私のほぼ唯一の料理のルールだ。甘いとうまい。

みそ汁はそんなにおいしくなくてもいいという気持ちがある。汁だから。でも豚汁はメインの料理なので、おいしくなければならない。

昼食後、娘がきっぱりと「ひとつ残らず終わった、もう何一つやることがない」というので、息子が「スラムダンク」をすすめた。

仕事をしていると娘がそこそこ大きめの声で「おもしろいよスラムダンク」と言った。

夕方になり、娘が塾に宿題を取りにいったり息子がLINEを友達と交換しにいくなどして1人の時間がすぎるころ、換気扇から蜂の羽音がした。

ブーン

きた! と思った。昨年の春、この家は蜂に悩まさされた。気づくと室内にいる、居間にいる、ふろ場の脱衣所にいる、台所にいる。虫よけスプレーをあちこちにしてやっと来なくなったが、そうだ、蜂は換気扇から入って来るものなのだった。

昨年買ったスプレーをたっぷり換気扇の周辺と外まで吹いておいた。大丈夫だといいな……。蜂はこわい。

夜はAmazonプライムビデオに入った『映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ』を娘と観る。

大変な感動作と聞き、映画館で観たらどこまでも泣いてしまうと思われひるむうちに行きそびれていた。

最初、ただただかわいらしく可笑しみもあって、ほわほわ見ていくうちに徐々に切なさのゲージが上がっていく構成で、少し離れて観ていた娘と最終的にぴったり横にくっついて、最後は抱き合って泣いた(娘はそれほど泣かなかった)。

これは「かわいいもの」と「それを愛するもの」の話だ。

かわいいものを愛するものが、かわいいものに背負わせる主観的解釈、それをまるまる承認する、かわいいものを執着的に愛することへの救済のすべてがあった。

「ひよこ」というキャラクターが出てくる。これが圧倒的な主観的解釈対象で、それに他のレギュラーキャラクターが総出で感情移入する。最終的に「コミュニケーション」というよりむしろ「解釈」でひよこを救うところに、かわいいものを愛するリアルがあった。

寝よう。明日も家にいるぞ。明後日も、し明後日も家にいるぞ。

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