まばたきをする体

ここに真の卒業がある

息子は起きてすぐ着替えてしまった。今日は卒業式できれいなシャツを着るので着替えは朝食後がよかったが進言しそびれた。「おそるおそる食べて」と頼んで朝ごはん。

きちっとした格好がはずかしいと隠すようにパーカーを着てジッパーを首元ぎりぎりまで上げ、何も入っていない手提げ袋だけさげて出て行った。手提げ袋は小学校入学のときに買ったものだ。6年使い続けた。

娘も起きてきて私も着替えてわあわあと支度。支度をしているときはまったく邪念なく支度のことしか考えないので「わあわあ」という雰囲気になる。

祖母の形見の真珠の首飾りをつけたらめちゃめちゃ首が冷たくて「つめて~!」と声が出た。

娘に出られる? と聞くと「準備ばんぺいゆ」とのこと。連れ立って出た。

娘は学童クラブへ行って、私は普段は山に暮らす父と一緒に学校へ。卒業式は予定通り体育館で、でも基本マスク着用、全窓と戸をフルオープンにして、参加者のパイプ椅子をできるだけ離して設置する措置をとりながら行われた。

女の子は半分くらいが袴を着ていて、マスク着用でゴスみが加わり期せずしたかっこよさ。

校長先生から、寿司職人の修行はあっつあつのおしぼりを絞らねばならずこれが尋常でなくきつい、というお話があった。そうなのか……。100℃くらいあるらしいです。それは熱いな……。

中止になってしまった在校生とのお別れ会で演奏する予定だった合奏をやって式は終わった。合奏で使ったドラムセットがステージに残され、掲揚された国旗やステージに飾られた花とあいまって良い謎光景だった。

在校生と来賓不在の式だったけれどコンパクトななかに先生たちの、でもしっかり送るから! 大丈夫だから! みたいな気概が感じられた。校長先生の胸元のコサージュが頭の大きさくらいあって気合がこもっていた。

しかしそうかこれで息子の小学校生活は終わるんだな。この実感のなさは式が短縮版だから感じたのではないような気がする。式が通常のものだとしても実感はきっとない。

校庭でみんなと写真を撮るなどして帰り、自宅でしずかに賞味期限の切れたうどんをすすった。父は山へ戻っていった。

私は午後も会社に休みをもらっており、日記の本の編集をしたり息子のスマホを設定したり娘の塾の手続きをしてやりすごす。

借りたものを返すと友達に会ってきた息子が「今日あいつの家はすき焼きらしい」というので「うちも寿司にしよう」と対抗した。

夜になり寿司を食べた。

息子が「からし……だっけ? わさびだっけ?」と言うが寿司なのでわさびのことだろう。食後にキャラメルを白いつつみ紙ごと食べてしまって出していて、ボンタンアメのようなオブラートだと思ったらしい。小学校を卒業してもまだ知らないことが多い。

小学校最後の通信簿が息子にしては大変な好成績で嬉しいことなのにもやもやし、なぜか考えたがそれは卒業してしまうのがもったいないという心象だろう。

物持ちよく使った手提げが玄関に置いてある。小学生らしいちょっとかわいい柄で、上手に使ってまだ使えるが息子はもう使わない。小学生だから使っていたのだ。ここに真の卒業があるなと思った。実感があった。

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