まばたきをする体

幼少の記憶があまりに都合よく懐かしい

目覚ましが鳴りすっと起きた。昨日「朝に起きる」練習をしたがその成果が出た。

子らのお弁当をこしらえていると息子も起きだしてきた。気づいたことがあるという。なんだい。

「想像していることは起こらないんだよ、想像していないことしか起こらない。たとえば、俺の水筒はいまシンクの上にある。シンクの上にあるだろうなと思っているとシンクの上にはない。シンクの上にあると思っていないからシンクの上にある」

お……おお……。ふわっとしたかなり感覚的なことを共有しようとしてくれるのはとてもうれしいことだ。「確かに、誰もの意志の働きにくいできごとはたいてい意外なものだよね」

寝坊の娘も起こした。機嫌が悪いので「ぷんぷんしているね」というと「眠いから」ということだ。

人々はそれぞれの持ち場へ散り、私も会社へ。仕事始めで年始の挨拶などしてから働いた。終えて帰宅。

洗い物をしながら玄関が揺れた気がして「おかえりー」というも誰もいなかった。物音に挨拶することはわりとよくある。

明らかに玄関の戸があいて「おかえりー」というと今度こそ娘が現れたのだった。朝ぶりに会えてうれしく、ひとしきりきゃっきゃした。

息子も帰宅。こちらはきゃっきゃすると嫌がるので静かにした。

息子の靴下には第一世代から第四世代まである。いつか、まったく同じ紺のソックスを大量に買って与えたのを息子はすこしずつおろしてはいていて、だいたい4足くらいを最初にはきだして、それがなんとなくだめになりだしてまた次の4足を、というのを繰り返してサイクルが4周くらいしているのだ。

第一世代から第四世代までの各靴下は繰り返しはき洗濯するうちシャッフルされて、右足はぼろぼろの第一世代、左足は比較的新しい第四世代を履くようなこともある。

洗濯を取り込んでいると、その息子の靴下に穴が開いているのを見つけた。ぼろぼろで、もう終わりだろう。捨てながら息子に「これでもう第一世代はだいたいが逝ったかね」というと「いまの『いった』は『逝った』の『いった』だね」ときゃっきゃしていた。お、きゃっきゃしてるな。

娘が今晩はいつもと違う部屋で寝たいというので物置に寝床を作った。こういうことは正直とてもめんどくさいが、同じ自宅のなかいつもと違う部屋で寝たいなどという要望は大人になるとなかなか出ないものだろう、そんな気分があるうちに叶うのはいいことだと思い、作った。

二人が寝て、瓶ビールを飲んだ。お正月に親戚にもらってありがたく飲んでいる。栓をぬいてグラスにあけると瓶の口にぷかーっと泡が出る。

子どものころ父が夜、ナイターを観ながら瓶でビールを飲んでいて、私はこの泡を日々面白がっていた。瓶の腹を栓抜きでカンカンたたくと泡が上がってくる。父はつまみに畳いわしを食べていた。

畳いわし……思えばなんでポテチとかじゃないんだ? 1980年代の話だが、時代の関係なのか。母の実家は魚屋だが、そこから大量にもらっていたとか、そういう事情だろうか。

思い出した幼少の風景があまりに都合よく昔っぽいのでしばらく疑った。

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