まばたきをする体

同じ家に同じ気持ちの人がいる

玄関に置いてあるサンダルの上に錠剤くらいの大きさの緑の球が落ちていた。拾い上げると何かの実だ。

なんだろうこれ。学校に行くべく子どもたちはおのおのランドセルを背負わんとしている。

「みどりの実を拾った人!」というと、娘が「はい!」と手を挙げた。きみか。

塗ったような緑がきれいで、靴箱の上に置いてかざった。捨てるのがしのびないときに私はよくかざる。

息子がまだ1歳か2歳くらいの頃の動画に、寝る前に本を読んで読み終わったあと「かざっとく」といって枕元に本を雑に置く様子が映ったものが残っている。

私たちはかざるという行為になんらかの免罪を感じているところがあるのではないか。

子どもらは学校へ行き、私も仕事。

打ち合わせがあり渋谷の歩道橋を歩いていると向こうから小さな子連れの親子が走ってきて「あった! あったよ! 落ちてる!」といった。

振り返ると道にひょろっと袋が落ちていた。同時に歩道橋の下をわんわん消防車が数台走って行った。

とどこおりなく仕事を終え帰宅するころ、息子から電話がかかってきた。塾に行こうとして気づいたんだけど、服に血が付いてるんだという。怪我はしていないし、学校で怪我人が出るようなこともなかったし、なのになんで血が付いているのか不安だと。

脱いだものをあとで見ておくから、よく体を調べて大丈夫だったら着替えて行きな、と伝えた。

帰ると、息子の長袖が居間に広げて置いてあった。「←ここに血がついてます」と書いたふせんがついていた。

血は鼻血のついたティッシュでこすったくらいのかすかなものでとりあえずは安心。しかしなんだろう。ささくれからの出血に気づかなかったとか、そういうことだろうか。

そのうち娘が帰ってきて、手羽元を煮て食べた。

食後娘は「ずっと気になっていた」といって、納戸のにめちゃくちゃに納めていた公文のプリントを空き箱に片づけて自分のロッカーに入れていた。ああ!そうそう、納戸のプリント、私も気になっていたんだ。

片付かない状態を見て片づけなくちゃと思う人が同じ家で私のほかにもう一人いるということがとても心強い。

娘が寝るころ、息子が塾から帰ってきた。

いい知らせがありますよ、と言って学校で抜けた歯を見せてくれた。大きな奥歯で、そうか、こんな歯らしい歯が抜けるころなんだな。

担任の先生が「良い歯が生えますように」と書いた紙につつんでくださってうれしくて紙はかざった。

息子が寝るころ私も早々に寝る。夜の気温が日々低くなっていくのを、布団に入ると感じる。

毛布がなかなか温まらない。もぞもぞしながら息子の寝息が聞こえだすのを聞いたころ、はっとした。

服に着いた血、歯が抜けたときに出た血じゃん?

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古賀及子(こがちかこ)・まばたきをする体とは
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