まばたきをする体

太陽の塔に入るお金がなくて走った

服を着て顔を洗って歯を磨き、荷物をまとめて山の中にある夫の家を出た。

夫が車で川沿いの道を駅まで送ってくれた。川には大きな岩がどしんどしん次々ある。 息子はあらわれる山肌がずっと土じゃなくて石の肌であることに「かっこいい」としびれているようだった。

電車を乗り継ぎ大阪へ。今日は「太陽の塔」の中に入るんだ。入館の予約をとっておいた。

私がそうだし息子も娘もあちこちどこかへ行きたがらないたちで、これまで旅行らしい旅行をしたことがあまりない。

そういうわけなので「太陽の塔のなかに入ってみたい」と息子が言ったとき、これは絶対に一緒に行きたいと思った。これこそが旅行の動機だと。

大阪までの道中連絡がきた人たちに「今日は太陽の塔に行くんだ」と返事をすると「ああ、息子さんが行きたがってたやつね」とみんな知っていて、わたしが使命感にかられすぎてあちこちで「息子に太陽の塔に連れて行って欲しいと言われたんだ」と漏らしまくっていたのが知れて恥ずかしくなった。

大阪モノレール万博記念公園駅に近づくうち、車窓に太陽の塔が見えた。

あっと思うがここで私が二人に教えてはいけない、自分で発見して興奮するのがいい。

教えるのを我慢するが息子も娘も気づかない。言いたい言いたい言いたいよ~!

しばらくして息子が小さな声で「あった」と言った。

ありますね!

子どもらはそれほど大興奮するでもなく、それよりお腹が空いていたので先に昼ご飯を食べた。大阪だからたこ焼きを食べた。

それから太陽の塔の前で並んで記念撮影をした。

私が太陽の塔に声をあてると娘が喜んだので、ずっと「よくきたね、待っていたよ」とか「きみたちに無限の力をさずけよう」などと無責任に太陽の塔の声をやった。

娘は日頃あまり写真が好きではないのだが、この日はなんども写真に写った。顔ハメパネルも見つけたら全部やった。

太陽の塔の入館は夕方の時間を予約したので先に国立民族学博物館へ。

行って気づいたが娘は土着の呪術的なものがとても苦手なのだ。小さな頃は獅子舞を怖がってどんなお祭りも行けなかった。かざられた天狗の面が怖くて料理屋へ入れなかったこともある。国立民族学博物館といえば土着の呪術大集合の施設じゃないか。

娘は仮面や像をこわがりその部分は早足でみた。とくに日本のお祭りコーナーが怖かったといっていた。それでも楽しいところはあったようだ。ほっとした。地下の誰もいない休憩所でみんなで自販機で買った7UPを飲んだ。

終わってEXPO’70 パビリオンへも。大阪万博の全ての意匠のかっこよさにしびれきる。未来をおもう力の強さが桁違いだ。人類の進歩と調和を祈るという意味では、ここが最終到達地点なのではとさえ思った。

そうして太陽の塔への予約時間が迫り、いよいよ受付に行くぞというところであっ! 現金を、そういえばほとんど持っていない……。子どもらと全員合わせても1100円しかなかった。3人が入館するのには1300円必要だ。なんということか! 大慌てで駅前のコンビニまで走った。

途中までワーワー大騒ぎしながら3人で走り、全員で走る必要ないじゃんと気づいて子どもらに荷物を預けて一人で走ってコンビニまでたどりつきATMでお金をおろした。

太陽の塔の目が光った。お母さん、目が光ったよー!と娘が迎えてくれた。息子は遠くに見える走るお母さんがすごい早かったとたたえてくれた。

太陽の塔の中はとても面白かったです。手の部分の内部はそれだけでキューブリックの映画だった。

帰りに岡本太郎太陽の塔の前に立つ写真のポストカードと太陽の塔の正面の形のマグネットを買って帰途へ。

新幹線で食べるのに子どもらが大きなヒレカツ弁当を選んだ。食べきれるか私が不安だし子どもたちもちょっと自信がないという。残ったら私が食べようと私の分はおにぎりとビールだけ買った。

結果、ふたりともぜんぜん食べきれる様子だった。おいしそうだったのでねだってカツを一切れとごはんを一口ずつもらった。

家まで帰り着くと22時で、子どもたちは荷物を片付けてすぐ寝ていた。

私は楽しかったのでまだそわそわしてビールを家にあるだけ全部飲んで寝た。