まばたきをする体

菓子折りの菓子折り性

起きてきた子どもたちに観葉植物を切る相談をした。

数年前、娘がバレエの発表会でもらったブーケを花瓶に生けた。飾っているうちに花が枯れるなか1本入っていた葉っぱは枯れず、そのうち根が生えてきた。

そのまま花瓶にどんどん根を張って瓶じゅうを根でいっぱいにしていきながら今日まで元気でいる。

少しづつ伸びて新しい葉を生やす。下のほうの葉はバトンタッチするように枯れるので摘んで捨てる、それを繰り返していたら、どんどん背が高くなってきた。

それで、これを切ってはどうかという相談だった。

茎の途中で切って、あたらしく生ける。するときっとまた新しく生けたほうからは根が生えてくるんだろう。あらかじめ根がもうあるほうはどうなるんだろう。どこかから葉が生えてくるんだろうか。

息子は「それは生えてくるだろう」といった。娘は「よくわかんない」という態度。娘は興味のないことにはかかわらない。

うむ、家族に一声はかけたぞと、説明責任を果たした気を得たので茎の途中で切って、切り取ったほうを別のグラスに生けた。どっちも育ち続けるといい、楽しみができた。

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息子は部活へ行った。骨折をしているが行くだけ行くんだそうだ。先輩にもひとりけがをしている人がいて、行くとずっとふたりで話しているんだと言っていた。娘は塾へ。

誰かいて腹が減ったと言わないので仕事がはかどり、帰ってきた子らに炊けたごはんとみそ汁と納豆を出して自分も食べて、それから会社へ行く。

私は普段デイリーポータルZという読み物のサイトの編集をしているがこのサイトが4月1日から別の会社へ譲渡されることになった。私も事業と一緒について会社を移るので、今日は譲渡元の会社への最終出社日。

途中の駅で降りてお世話になった人たちに配るお菓子を買う。私はこういうところ全く気が付かないのだけど、同僚が用意しようと言ってくれてハっとした。

菓子折りを買うと紙袋は有料ですと言われ、エコバッグは持ち歩いているのでとっさに、袋はいりませんというが、菓子折りをぼろぼろのエコバッグに入れたらお使い物の雰囲気がまったくそがれてしまった。菓子折りの菓子折り性は紙袋に宿るのだと痛感した。こういうところも私はセンスがない。

残った仕事や挨拶をすませ無事にお菓子も渡してパソコンや社員証などを返却して帰る。

帰り際に同僚ともうこの事務所へは二度と来ることがないですねなど感慨を言い合ったが、こういう感慨は今日だけのものですよねみたいな話もした。

会社は用賀という世田谷にある駅のビルで、用賀にももうそう来ることもない。人があたりをうろつく縁は簡単に切れて、簡単に次の場所をよくうろつくことになる。

帰り際にスーパーに寄って、鶏もも肉が安かったのでシンガポールチキンライスと決心して買って帰る。うまくできてみんなでたくさん食べた。

それから、まさかさっき返したパソコンに私物のマウスのUSBレシーバーが刺さりっぱなしだったことに気づいて注意の散漫さに目が開く。あの小ささはいつも恐ろしいと思っていたがやはり私には無理なサイズだ。

夜は仕事の関係で0時が過ぎ4月1日になってエイプリルフールが始まるのを待ち構えてから寝た。

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しつこく餅をすすめる

ジャンバラヤからLINEが来た。

ジャンバラヤという知り合いはいないがアイコンを見て娘の友人と分かった。以前は本名のアカウントだったが改名したらしい。

ジャンバラヤが今日遊びたいって言ってるけど。寝ている娘に声をかけると「誰?」ということで、改名を娘は知らされていないようだった。

娘はやらねばならないことがひとつも終わっていないといって、遊びにはいけないそうで私から丁寧に断りの返事をしておく。ジャンバラヤは「わっかりましたー!」と元気に送り返してきた。

子らは今日も春休みで寝坊をたのしんでからゆっくり起きてきた。私は朝から在宅勤務。

昼、春休みの子らになんらかを食べさせねばならないが食事の準備をするのが時間的にかなりむつかしい。ご飯だけ炊いてレトルトカレーをかけてそれぞれ食べた。

急に暖かくなってもう半そでを着ている。薄手の長袖を着そびれたのではないか。おそろしい気持ちになった。

午後も仕事をして、終えてスーパーに夕方買い物に出る。

夜が迫りもはや料理をしない気はまんまんなのでお総菜コーナーに直行して、あとアイスと野菜ジュースなどをかごに入れ、スーパーに来たのに買い物かごに野菜が入っていないのに罪悪感がある。

でも、いい!

力強く思った。よしとする。よしとすることにより生きながらえる。

アジフライを買ってきた。キャベツはあるのでたくさん千切りにして、キャベツをいいわけにソースを食べる晩ごはん。

食べながら、息子の言い間違えを娘がからかったのですこしとがめる。娘は自分がからかわれるのは大嫌いで泣いて抵抗するのに人にはやる。

「はい……」といって一瞬しゅんとするのでこちらも、「お、おう……次から頼むよ」みたいな気持ちになったが、すぐに立ち直っていて、でもどうなんだろう。本当にカラッと忘れているのか、心でどうとらえているのか。言い咎めるようなことはなかなか塩梅がむつかしい。

私はなにか言われたときにハッとショックを受けてちょっとトリッキーな行動に出ることがある。たとえば過剰に謝ったりとか。かなりうざったく反応するような。なかなか忘れられず悔やむしどこかの部分が弱いんだろう。

キャベツもご飯も大盛にして汁物にもあらん限りの具を入れたのだけども食後の子どもたちはまだなにか食べたそうで、私は餅をすすめた。

ふたりとも餅か……という感じ。しかしなんかないかとまだ言うのでこちらもしつこく餅をすすめ、すると娘は最後まで興味をしめしてくれなかったものの息子が観念して食べた。

観念して食べる餅の味はどうだい。聞くとおいしいそうだ。きなこの餅にしていた。

夜、本を読んでいると息子になんで付箋をはるのか聞かれる。

ふせんは面白かったところとかなるほどなと思ったところに貼っておくが、一冊読み終えたところで見返すと忘れている。「もう忘れてる!」と驚くのが良いんだよ。

すると息子はなるほどと。忘れていることすら楽しむとはプロどくしゃーだね……と言って去っていった。

なんでプロゴルファーっぽく言った?

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喜怒哀楽よそのまちのスーパーを羨む

きのう大事なデータをうっかりミスで堂々まるまる消してしまったショックで寝苦しむ。

「仕方がない」のひとことに尽きるのだけど、自分のミスでしかなくほかになんら悪い要素がないのでまったく救いがない。

「これは私に、生活を用心して送れよと注意する神からの知らせなのだ」とか、ちょうどこのところ気持ちを浮つかせていたので「その方向は間違っていると運命に引きとめられたのだ」などと天啓をうけたような気分になっては、いや天啓というかただのうっかりだとすぐに気づいて夜の間のしょんぼりした。

ただ朝になると落ち込みにも慣れ楽になってきて、張り切って起きる。

張り切っては起きたが子らは春休みで早起きする必要があるのは私だけなのだった。朝ご飯をひとり静かに食べて仕事を始めた。

あまり遅起きになってもよくなかろうと声をかけると息子が起きてきたので、ぬいぐるみを駆けよらせて喋らせた。昨日消したデータのことを悔やむセリフで床を転がしてからうつぶせにして手で床を叩せるように動かしたらかわいかった。

ぬいぐるみと、あと仕事があることに助けられて気が楽になり、ありがたいことだ!

昼は仕事の関係で食べた中華まんを子どもらにも分け与えすます。息子がどんどん食べた。中華まんってこんなにどんどん食べられるものなのか。

午後は子らが出かけていき引き続き私はやーやー仕事。終えて夕方、用事をすませるので電車に乗って出かけた。

出かけた先に見知らぬスーパーがあり入るとずいぶん安くてアワワとなる。

「よそのまちのスーパーをうらやむ」というのは事象に即した感情だが、私はこの感情の発動があまりにも頻回なため(居住地以外の街でほぼ感じる)、感情のレパートリーのかなり取り出しやすいところに入っている気がする。

感情の四天王である喜、怒、哀、そして楽があって、そのすぐにもう「よそのまちのスーパーをうらやむ」がある。

喜怒哀楽よそのまちのスーパーをうらやむくらいのかんじ。

フレンチパピロがあったので買った。しかし帰りに近所のスーパーにも寄るとそこにもフレンチパピロは売られていたのだった。

家には子らがもう帰っておりそのまま支度をして晩ご飯。娘がフレンチパピロを見て「お菓子があるじゃん!」と言っており、確かにこれはすごくお菓子っぽいお菓子だ。

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それからニュースで「汚職事件」を聞いた娘が「お食事券……」と言って、スタンダードな可笑しみだが以降ニュースから流れる「汚職事件」がすべて「お食事券」に聞こえ案外新鮮に感じ、息子も最初はそんなんで笑うかという様子だったがみんな笑った。

本を読んで寝る。だいぶ暖かくなってきた。今日はTシャツですごした。

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身の丈に合わないことを企てていたせい

昨日の夜、娘の髪の毛を乾かしていて、急に、あ、これはだめだ! 目覚めてそのまますぐに駅前にある、大きくて予約の取りやすい美容院に電話して予約を入れた。

娘は前髪のないロングヘアで、バレエをはじめた3歳のころから前髪を伸ばし始め、あとは後ろ髪を散髪するくらいでずっときた。

不器用な私はいちど息子の前髪をひどいことにしてしまったことがあり、それで子どもたちは1000円カットに行っていて、娘のオーダーはいつも「5センチくらい切ってください」みたいな感じ。

安くて早くやってくれるのがすごくありがたくて助かっていたけど、娘のこの毛量、これは1000円カットでは間に合っていないと急に思った。汚いわけじゃないけど洗い切れていない。美容院でしっかりすいてもらって、シャンプーとドライヤーを少しでもしやすい頭にしないとまずい。

予約は午前中を取った。娘を起こしてご飯を食べさせ一緒に向かう。ネットで料金表を見ると思ったよりも安いので、ついでに私も前髪のカットとシャンプーをお願いした。

娘は道中シャンプーを嫌がっていた。「いつもみたいに切るだけでいいよ、シャンプーはいい」という。はじめてなので引っ込み思案になってるんだろう。

大丈夫、すごく気持ちいいしどうせいつかやるなら早いうちに体験しておいたほうがいいよと勇気づけるが、「えっ! 美容院のシャンプーっていつか必ずやらなくちゃいけないの?」と、確かに必ずというわけじゃないか。でもできることは増やして、世の中に慣れておくとあとがぐっと生きやすいと思う。

変な紙を顔の上に乗せるのがおもしろいからとさらに説得し、うやむやのままもう美容院についた。

ここは頼もしい美容院で、まずでかい。鏡が何面もあってたくさんの美容師さんが働いている。そういう融通があるからか予約が取りやすいし、偉い美容師さんを指名しない限りずいぶん安くやってもらえる。娘が手始めに行くのにちょうどいい。

娘と私、隣の鏡で別々の美容師さんについてもらった。じゃあシャンプーしましょう、と、娘は自然に連れていかれ、私が前髪を切ってもらっているうちに神妙に平気な顔で戻ってきたのだった。

娘の髪、すっかりきれいになった。量が半分くらいに減り、これなら家でもなんとかシャンプーとドライヤーができそうだ。毛先に丸みをつけてもらって「髪型」という感じの頭になった。

これまではなんというか、髪! 髪が生えてます! という、迫力があってそれも良かったといえば良かったんだけど、頭髪が教養を得て理性的になり成長したように思えた。

美容師さんたちもにこにこ「すっきりしました!」と嬉しそうにしてくれてうれしい。

よかったよかったと、昼のホットケーキの買い物をして帰宅。娘がバニラアイスを買おうと良いアイディアを出してくれた。

帰っておなかをすかせていた息子とホットケーキの準備をする。息子は骨折して腕を吊っているが料理をやりたがる。

バナナを輪切りにするとか、ツナに玉ねぎを入れるとか、どうってことないけど私だと省略するような手間も二人で作業しているとやる気になる。

食べておいしくて、しかしバニラアイスのことを忘れていて結局食後に厳密に3等分して食べた。

午後は子どもたちが塾に行く間に部屋やパソコンの片づけをした。

片づけをしながら最近しばらくずっと企んでいることを、また考えていた。

先日友達に会ったときにすごく話が盛り上がって、かなり大それたことをできるできる! という気になった。

実際できるのかもしれないけど、それで妙に浮ついて、細かくしくじることが増えていた。人への連絡が漏れていたり、重要なTODOをあぶなく見落としそうになったり、なんだかおかしいなと思っていたが、まあ大丈夫だろうと、そんな「まあ大丈夫だろう」フィクションの世界であれば「大きな失敗」のフラグでしかないわけだが、なんと私の現実もこの「まあ大丈夫だろう」が失敗の、あからさまなフラグであった。

すごく大事なデータを、まるっと消してしまった。

リカバリ不能なタイプの消し方で消した。

普段は何度もチェックしてからやるような消去の作業を、まあ大丈夫だろうと気軽に実行して、あとで気づいて真っ青になった。

気を取り直してご飯は食べて、それから、うお~~~、ゴロンゴロンゴロン。床を転がり悔やむ。息子に愚痴って内容を話すうちにクリティカルなものではないことだと諦めもついたが、それにしても実損がある。

身の丈に合わないことを考えていたばちだ! と思った。

ばちではなく、ただのどでか凡ミスなんだけども、すがるように。

大それたことを考えていた、これはその軌道修正なのだ! みたいなことにしてなんとか寝た。

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他社に先手を打たれ悔やむ自分

はちみつの代わりに買ったあんこの減りが早い。朝食の席でぼやいていると息子が上を向いてはちみつのチューブを口にしぼるみたいなしぐさをして、

「はちみつはこうやってガーって飲むみたいな食べ方しないじゃん、でもあんこはそういう食べ方してるからね俺たち」

といって、確かにそうだった。あんこは飲むみたいに食べちゃうからよくない、やはりはちみつを買おうと話し合った。

しかしはちみつはピンキリが強い。大容量で安いやつとちょっとしか入ってないのに高いやつが、近所の小さなスーパーくらいでも4種類くらい展開されていていつも悩む。

気が弱いので中くらいの価格のを買って気持ちを落ち着かせていて、それを息子に相談したところ、いっぺん一番安いやつに行ってみるのもいいかもしれないという。そうしてみるか……。

娘を起こして作文教室主催の市民プールにみんなで行く会に向かわせ、私と息子は耳鼻科へ。鼻炎の息子のいつもの薬をもらいに出かけた。

息子は骨折して腕を吊っているので、その様子で耳鼻科に行くのはちぐはぐに思え、しかし骨折しながら鼻は確かに間違いなくずるっずるなんで、骨折の手で耳鼻科に行く、これはとても現実的なことだなと思った。

処方箋を受け取り息子を先に返してなじみの調剤薬局に行くと、レジの横でマスクのふちを飾る手作りらしいアクセサリーを売っている。

薬剤師さんの関係の方が作ったんだろうか。恐縮ながらマスクのアクセサリーは私なんかがすると間違いなく落とすので興味があまりないんだけど、こういう小商いがめちゃくちゃに好きなので興奮してながめた。

店はいいよな店は。

帰ると息子になんかないかと聞かれ、おやつなら今なんもないな。

落胆した息子は「バナナが無限に出てくる装置とかあったら10万出してもいいんじゃない?」と極端なことを言う。10万! もととれるかな。1房100円として毎日食べて1か月30日で3000円。1年で36000円。10万円のもとをとるには3年ちかくかかる。

「3年……装置故障するね……10万で買うのはやめておこう」と諦めていた。

何かどこかへという日よりだけれど予定もなく、感染症対策的にそれがよいのだろうけどついはっと不安になる。しかして売れた同人誌を発送しにぶらぶら歩いて行き、帰りに図書館に寄ったら気がすんで、ひまでいくぞという気持ちが荒ぶった。

昼は蕎麦。茹でていると息子がつけ汁のレシピをスマホで見せてきて、これを作ってみたいのだがという。

もともとはそうめん用のレシピだそうで、担々麺スープ風というもの。なるほどこうしてつゆで食の良さを高める方法、あるな。

放っておくと私はまったく工夫なく生きてしまうのでよりよくしたいという息子の心意気に感心した。骨折の人なのでレシピを横からのぞいて手伝い作る。

娘は辛いのが苦手なのでふつうの麺つゆで、息子と私は担々そばを食べた。蕎麦でも案外合う。うまいよう。

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すすめたい作業などあり夜までパソコンに向かって気づくともう夜、買い物に出るとスーパーの手を消毒するボトルの台の下に「手の消毒をお願いします」と書かれたマットが敷かれている。

おお~~、コロナ市場だ。こういうの、ちゃんといち早く取り組み商品開発するんだろうなあ、私はそういう初動の勘に自信がない。店舗用マットメーカー勤務だとしてちゃんと動けるかと思うとおそろしい。他社に先手を打たれ悔やむ自分を想像した。

刺身が安くなっていてこれはと買った。帰る。

刺身で手巻き寿司が急に開催されこれはうまいとみんなで食べる。そのうえテレビでは動物のあかちゃん特集が放送され、熊のあかちゃんが出てくるものだからみんなできゃあきゃあ言った。

新しく読み始めた本がとても読みやすくするする読めてうれしい。でも結局麻雀ゲームもした。2か月くらい熱心に取り組んでいるが一切うまくならずCOM戦でずっと同じキャラクターに負けている。

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ちゃんとしたファンの人が使う言葉

PCのファンの音がとまり、IHコンロのファンの音もとまり、すると一気に静かになった。うるさく感じていたわけでもなかった音がやむ、そのときの感じが好きで興奮する。

A うるさい状態 → B うるさくない状態 → C 静かな状態

音の状態にこの3か所があるとして、B点からC点に変わるとき。つけていたラジオを切った瞬間とか電話を切ったあともそう。

C→Aも結構良い。ちいさなクラブの重い扉を開けたときのやつ。
C→Bもいい。エレベータを降りて人のいるフロアに出たときとか。

音量が変わる瞬間がいつもドラマチックで良いものなのかなと思った。

春休みの入った子どもら、息子は朝から部活へ行った。骨を折っててやることがあるのかと聞くと、劇をするからとのこと。サッカー部が劇を。

3月で卒業する先輩を送る会があるんだそうだ。そういえば学校という場は体育会系の人が劇をやるな。

娘は午前中用がなくゆっくり寝ているので時をみはからい起こす。私は在宅勤務。

昼は私も娘も各自好きに食べ、午後リモートで打ち合わせなどしているうちに娘は作文教室へ行った。

娘は国語がらみの習い事に、冷静になって考えてみたらなんと3つも通っていて、整理して必要なものだけを取ろうと話したところ作文教室は手放したくないということだった。

ただそうして考えるとこの作文教室は名前のわりに作文はあまり書かず、では何をするかというと土曜日にみんなでプールに行って、年に一度山に登り、乗馬に行き、あとはたまに川に草笛を吹きに行く。作文教室という名前から、国語の習い事とは思わないほうがいいかもしれない。

もう4月になる、習い事のことをいよいよ決めないと。

仕事を終えるころ娘が帰ってきて、「うちってテレビを録画できないよね」と、そのことについてはじめて聞かれた。

録画用のHDDが壊れ、新しいものを買うもテレビ用ではないHDDを買ってしまって私は拗ねて、返品してからこの家はテレビが録画できないままなんだった。困ることもなくやってきた。

娘は「ヒロアカの5期がはじまるけど……放送の時間バレエがあるから……」といって、それは……それは大問題だな!!!

まず娘からアニメのタイトルにあわせ「5期」という言葉が出たのに驚いた。あれはちゃんとしたファンの人が使う言葉だろう。娘がそんなファン用語を使えるなんて感激する。めちゃくちゃに成長を感じる。

大丈夫、明日の午前中に電器屋にHDDを買いに行くよ! 勇んで請け負った。

一応念のため、配信はないのか調べたら、Amazonプライムで新作もいきなり配信されるとある。えっ、じゃあうちプライム入ってるし録画しなくてもいいのか。

HDDなしの生活が続くことになった。

よかったよかったと、それから晩ご飯を食べながら観たニュースで東京では桜が満開ですと流れた。

娘が「画面に桜とか花が映ったときにキャスターの人がにっこりするやつ好き」と言っていて、好きだなと思った物事を即座に言葉にできる力があるのだなと感心した。ちょっとした「好きさ」みたいなものは感じていてもなかなか言語化するところまでいけない。

それから食後「アイスは昼食べちゃったから今日はもう食べられないな」と娘。この家にはアイスはひとり一日1本までルールがありちゃんと守っている。私も昼食べたからもう今日はもうだめだーと返した。

部活の後塾へ行った息子も帰ってきてご飯を食べ、この人も「アイスは朝食べちゃったんだよな」と言った。

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オタクじゃなければなんなんだ

朝、背中側の首の付け根が痛いのに気づいてヒッとなる。

なんらかの症状か!

前日にはなかった不調が目が覚めて朝に急にあらわれることはよくあり、本当におそろしい。

身構えたが、そうだ、昨日寝る前に本棚によっかかってスマホを眺めていた、棚板がちょうど背骨に当たっていたんだ。思い出した。

それは仕方がないと、原因がわかって一気に気楽になった。

子どもたちは学校へ行き、しかし今日で二人とも学校が終わるんだそうだ。あるなあるな……と思いながら見て見ぬふりをしていた春休みがやってくる。昼ご飯の用意の必要な春休みが……。

今日の昼は麺、絶対に麺、手はかけないぞという気持ちを新たに私もいったん会社へ行き昼休みのうちに戻る。

いい天気ですね。桜が知らない間にすっかり咲いていた。

去年もそうだったけど、今年の桜も宴会が紐づかないのでとくに楽しいものではない。楽しさがなくなるとあとは美しいなと愛でるくらいになり、ただ愛でるとなると桜って、どちらかというと恐ろしいものだ。「桜の森の満開の下」みたいなクレイジーなイメージ。めちゃくちゃ花だし、幹からもダイレクトに咲いているのが美しがらせようというもの以上の執念を感じる。

家に戻ると子らも次々帰ってきて、するとわたしは辛抱たまらず向こうから出てくる前に通信簿をせがんだ。

二人ともこれまでと大差のない仕上がりで、大きな落胆も喜びもなく心の静かな時間だった。息子が小学校に上がり学校から通信簿をもらうようになってもう7年目だけど、待ってましたと開くわりには通信簿に心が大きく動いたことはない。思えば自分のころもそうだった。

我々は淡々と同じ成績をかさね学生生活を終えるタイプなのかもしれない。

スパゲティをゆでてナポリタンにし順次食べて私は午後も仕事。子どもらはごろごろしてから習い事やらにそれぞれ出かけていた。

仕事を終え夕方買い物に出るところで息子にバナナを買ってきてくれと頼まれる。絶妙に母が断らないラインの食べたいものを申し込んできた。ちょうど娘が帰ってきたので買い物についてくるかと誘うが断られ、ひとりとぼとぼ向かって言われるがままにバナナを買った。

レジで会計している人が白くて長いシャツワンピースを着ており、すそが黒くすれている。私も今朝、春だからと同じような白くて長いシャツワンピースを出して、まったく同じようにすそが黒くなっているのに気づいた。自転車の汚れだろう。見つけたときはあちゃーと思ったが、仲間がいて一気に心が強くなった。

晩ご飯を食べて食後、娘はテレビでアニメソングの特番を観ていた。大好きな「スラムダンク」が出てきて興奮の様子。

推しコンテンツが超スーパー大人気コンテンツだとこうして露出が多くて喜ぶチャンスも多いんだな。マイナーなものを愛すのもとてもとても楽しいけどあちこちで遭遇するよろこびはほとんどない。

しかしなんだ、アニメが本当に人気の世の中だ。番組ではタレントさんたちが深夜のアニメについて「すごい良いですよね!」などと楽しそうに話していた。

こういうとき、性根の悪い私はいつもアニメが好きでからかわれていた若いころを思い出す。当時はアニメもマンガも愛好するとオタッキーだとかわかわれ、ではからかっていたみんななにを好んでいたんだろう。

競馬とかスポーツにのめりこむクラスメイトはいた。高校の頃の一番の友人は洗車とオリックス・バファローズとグッチが好きだった。といってもファッションとか美容もそれほどはもてはやされていなかったように思う。ゲームも。すべてのカルチャーと距離があり、ただ自分の人生と知り合いの人生を楽しむ人が多かった。それは今でもそういうものか。

それからコンビニに同人誌の発送にでかけた。夜の桜はいよいよ迫力がある。おっ!これは怖いなと思い歩き、たぶんその影響で数メートル後ろの誰かの足音にも恐れを感じたが、足音はすぐに私とは別の道へ歩いて行った。

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