まばたきをする体

ケーキに隙間を見つけて悔しくて泣いた

学校に行こうとする息子にゴミ出しを頼んだ。ゴミ袋を渡すと「えっ!? えっ、ちょっ!?」と慌てている。

なになに? どういうリアクション? と聞くと、「『動揺を隠せない』ようすをやってみました」だそうだ。

おお、良いな。私がウケると満足そうにゴミをもって出て行った。続いて娘も出発して、私も会社へ。

会議があった。眺めの良い部屋で、まぶしくなることは分かりながらブラインドを開けた。みんなで陽のささない部屋のはじに寄った。干し肉と台湾のパイナップルケーキを食べた。

パイナップルケーキをおみやげにひとつもらって帰宅。子どもらもばらばらと帰ってきた。

晩は鶏とセロリを煮てみんなで食べた。

食べながら娘が「ヤクルトでうがいしたことある?」という。

ずいぶんやぶからぼうだな。

ヤクルトでうがいしたこと……どうだろう。大人になってからは間違いなくないはずだが、子どものころはそういう意味ない行動はしたかもしれない。

「……ない……たぶん」と自信なく答えておいた。

食後に会社からもらってきたパイナップルケーキを子どもらに切って分けてやった。

切り分けられた2つをじっとみる兄妹。いさかいが起きないよう、厳密に二分割したつもりだが、二人の目はまちがいなく量の差を目ではかっている。

どちらが先に選ぶか、じゃんけんで決めよう。娘がいって息子が応じた。息子が勝った。

娘はふん、という感じで諦めたようで、息子が先に一つ選んで食べた。

娘はセロリが少し苦手でまだ時間をかけて食べていたのだが、私が先に席を立って洗濯をたたみながら、ふと様子を見ると声を出さずにぽろぽろ涙を流していた。

おーい! なんだ! どうしたんだよーい。

娘は「隙間がある……」と言った。パイナップルケーキの中、餡の真ん中に空洞があるというのだ。兄が取った方は幅が自分のものより少し広かったうえに隙間なく餡が詰まっていた、と。

話を聞いてもらって火がついたのか、そこから声をあげて泣き出した。

娘はサイレンのように泣く。う~~~~う~~~~~。悔しいよ~~~。

「隙間」という表現がどうもおもしろくて私は笑いそうだった。こらえてなだめるが、結局すこし吹きだしてしまった。

「なんで笑うんだよ~~~」「ごめん、隙間ってよく気が付いたなと思って」

それから「でもお兄ちゃんはじゃんけんに勝ったでしょう。もしきみがじゃんけんに勝っていたら、お兄ちゃんがこっちを食べるわけで、悔しいのは分かるけどしかたがないんだよ」そう言って聞かせて、よしよししてなだめる。

しかし娘は、お兄ちゃんは泣かない! 悔しくもならない! と言った。

お兄ちゃんはきっとじゃんけんに負けてもこの隙間に気づかずおいしく食べただろう、でも私は隙間に気づいてしまった。それも悔しい、というのだ。

(1)ケーキの幅が兄の分より狭くて悔しい
(2)そのうえ内部に隙間まで見つけ悔しい
(3)兄だったら隙間は見つけず気にせず食べるだろうと思うと悔しい

すごい。娘の心に悔しいが畳みかけている。

特に(3)には感心した。兄の鈍感さをうらやみ悔しんでいるのだ。悔しさの拾い方がていねいすぎる。

分かった、明日またパイナップルケーキを探して買ってくるよ。こんどはちゃんと2つ買ってくるよ、というが、「一つでいい」と娘。

そして「明日はお兄ちゃんが小さいほうを食べてほしい」といった。

性根が悪い。が、気持ちは分かる。

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11/24(日)文学フリマ東京に「まばたきをする体」で出展します(ト‐37)。日記の本を持っていきます。
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